評論

環をのがれた獣――ロベルト・ムージル「愛の完成」読解

「愛の完成(Die Vollendung der Liebe)」という大仰な名前の小説がある。長大な未完の哲学的小説『特性のない男』で有名なロベルト・ムージル(1880-1942)の第二作品集『合一(Vereingungen)』(1911)の一編である。この『合一』は、前作の『寄宿生テル…

失恋、あるいは詩の裏切りとして――尾崎翠「第七官界彷徨」を読む③

(②の続き) ――恋と模倣 はじめに「第七官界彷徨」の書誌を簡単にまとめてみる。現行のテキストは1931年6月発行の『新興芸術研究』(2輯)に掲載された全編であるが、それに先立ち、『文学党員』(1931年2-3月号)誌上で既にその七分の四ほどが前・中編…

失恋、あるいは詩の裏切りとして――尾崎翠「第七官界彷徨」を読む②

(①の続き) ――詩と失恋 これまでみてきたように、「第七官界彷徨」というテキストにおいては、語る〈私〉と語られる〈私〉の距離がはっきりと意識されていた。「よほど遠い過去」のことを婉曲表現で語る冒頭の一節に、それが如実に表れていることは既に確認…

失恋、あるいは詩の裏切りとして――尾崎翠「第七官界彷徨」を読む①

序にかえて、まずは本稿の成立過程を説明しておく。昨年の秋から冬にかけて、「春と修羅」では尾崎翠「第七官界彷徨」をテキストに指定し、都合三回にわたって座談会を実施した。各自の読みや感想を交わしてみると、予想されていた以上に意見の相違が生じた…