貝塚暁仁

いなくなってしまった声で

兄はかう言つた。「小説を、くだらないとは思はぬ。おれには、ただ少しまだるつこいだけである。たつた一行の眞實を言ひたいばかりに百頁の雰圍氣をこしらへてゐる。」私は言ひ憎さうに、考へ考へしながら答へた。「ほんたうに、言葉は短いほどよい。それだ…

「枕木」を連絡する

男女両性を有する単語ならずとも、隠され、眠っていたもう一方の意味が、なにかをきっかけにして不意に姿をあらわす瞬間ほど怖ろしいものはない。 ――堀江敏幸「河岸忘日抄」 元々あった大きな集まりから、いくらかの人数が別の集落をつくった、その名前を「…